「インドの猛虎」

2026年9月、日本に2週間ほど出張することになった。久しぶりに帰国し本社の方々と顔を合わせると、彼らにとって「インドで暮らしている日本人」はかなり珍しいのか、インドでの生活について様々な質問を浴びせられた。ただ、その質問に正確に答えようとすると、回答するのに苦労するものも少なくはなかった。

一番多かった質問は「インド人って、ホントに毎日カレーを食べるんですか?」というものだった。この質問に正確に答えるのは意外と難しい。前職のD社のインド拠点では、確かに社員食堂のメニューは毎日カレーだった。ただインド人に言わせると、それは日本人が勝手に「カレー」と一括りにしているだけで、毎日、具材も異なり(確かに、チキンの日もあればマトンの日や、チーズだったり野菜中心の日もあった)、また、スパイスも毎日違うので、ルーの味が辛い日もあれば酸味が効いている日もあり、それらの料理を全て一括りに「カレー」と称すること自体、インド人にとっては違和感があるらしい。ただ、そのことを「インド人って、ホントに毎日カレーを食べるんですか?」と気軽に聞いてきた人に、こと細かに説明するのも時間が掛かるし、そもそも聞いてきた方も、あいさつ程度に聞いただけで、そこまで正確な情報を求めていないようにも思える。そのため、そのような質問に対しては「まあ、そうですね・・・」と当たり障りのない返答をすることにした。

また、次に多い質問としては、「インドって、日本より暑いんですか?」というものだった。これに対しても、正確に答えようとすると、なかなか難しい。確かに、外気温は日本より暑い日も多いが、湿度は日本の方が高いので、インドにいると日本ほど汗をかくことは少ないように感じる。また、一歩室内に入ると、冷房がガンガンに効いているので半袖では寒いくらいで、実際、オフィスでは、外気温が40℃を超える日でも、私は長袖のシャツにカーディガンを羽織っている。さらに治安上の問題もあり、インドでは基本的に移動は車でDoor to Doorなので、そもそも、暑い中、外を出歩く機会は滅多にない。そのため、「暑い!」と感じる時間だけいえば、日本の方が圧倒的に多い気がする。しかしながら、これも、気軽に聞いてきた人に説明するにはややこしくて回りくどいので、この場合も「まあ、そうですね・・・」と当たり障りのない返答をしている。

一番、回答に困った質問は、プロレス好きの社員の方からの「インドに行けば、タイガー・ジェット・シンに会えるんですか?」というものだった。そもそも私は、それほどプロセスに明るくないので、昔、「インドの猛虎」と呼ばれた「タイガー・ジェット・シン」というプロレスラーがいたことくらいは知っているが、彼が、現在インドに住んでいるかどうか、そもそも今もご存命なのかどうかも分からない。そのため、結局、その質問に対しても「会えるといいですね・・・」という曖昧な回答をするしかなかった。

質問した方々にとっては、私の反応があまりにも薄いので、拍子抜けしているかもしれないが、まあそれは仕方のないことだ。

 

とりあえず、インドに帰国したら、うちのインド人スタッフに「タイガー・ジェット・シン」の所在について聞いてみよう。そもそも彼らが「インドの猛虎」と言われた「タイガー・ジェット・シン」を知っているかどうかも気になるところだ。

 

 

 

「お・も・て・な・し」

インド南部、チェンナイにある小さな製造メーカーを訪問することになった。当社の製造工程の一部を、その会社に委託できないか相談するためだ。私の住んでいるグルガオンからチェンナイまでは意外と距離があり、飛行機で3時間近くかかった。ようやくその会社に到着すると、先方の社長から、長旅の労いの言葉とともに、蓮の花のドライフラワーを1輪プレゼントしてくれた。蓮の花は、インドの国花であり、とても神聖で縁起の良い花とされているそうだ。初対面で、まだ一緒に仕事をするかもわかならい会社の人間に、いきなりこんな「おもてなし」をしてくれるとは、少し感激した。

しかし、会議が始まった途端、さっき笑顔でドライフラワーを手渡してくれた人とは思えないほど、激しい口調で、うちのインド人スタッフと、何やら熱い議論が始まった。私はそれほど英語が得意ではないので、興奮して早口になったインド人の英語は全く聞き取れなかった。うちのインド人スタッフも、負けじとばかり、激しい口調で反論している(ように見えた)。

30分近く論戦が続いた後「一旦、ブレイクにしよう。」ということになったので、うちのインド人スタッフに「何か揉めているのか?」と聞いてみた。すると、彼からは「全然、順調に進んでますよ」という返事が返ってきた。その後も、やはり激しいやり取りが続いているように見えたが、最後は、にこやかな笑顔でその会議は終了の時間を迎えた。

そして、次のアポイントがあるので、帰ろうと玄関先まで来たところ、ドライフラワーを渡してくれた社長から「一緒に写真を撮ろう!」と言われた。そして、ふと横を見ると、私の名前が記入された、大きなウェルカムボードが置かれていることに気が付いた。そのウェルカムボードの前で、2ショット写真を撮影すると、その社長から「この写真を、うちの社内報に掲載しても良いか?」と聞かれた。仕事の打ち合わせで来社しただけの私との2ショット写真を使って、一体どんな内容の記事が掲載されるのかはわからないが、断る理由も無いので承諾することにした。すると今度は、嬉しそうな顔で「せっかくだから記念植樹をしよう!」と言われた。サンドイッチマンの富澤ばりに「ちょっと何言ってるかわかんないんですけど・・・」と心の中で思いながら、その社長の後をついて行くと、正門前の花壇のところに、数十名の社員の方々が集合しており、その中心には、木の苗を持った方が笑顔で立っていた。そして、その横には私の名前が書かれた小さいプラカードを持った方もいた。その方々から「さあさあ、どうぞ」というようなことを言われながら木の苗を渡され、花壇にその木の苗を植樹するよう促された。そしてその苗の横には、さきほどの私の名前が記載されたプラカードがしっかりと刺し込まれた。その後、周りにいた社員の方々からの割れんばかりの拍手を受け、全員で集合写真を撮影した。おそらくこれも社内報に掲載されるのだろう。どんな記事になるのかはわからないが・・・。

先ほどの激しい論戦が嘘のように、会社を上げて「お・も・て・な・し」をしていただいたのは非常にありがたいが、今後、この会社の花壇に私の名前が書かれたプラカードがずっと刺さっているかと思うと、正直恥ずかしい。

これがインドではよくあることなのか、ここの社長が変わり者なのかは、まだわかっていない。

 

 

 

 

「毎日がスペシャル」

2026年6月5日にインドに赴任して、もうすぐ2ケ月が経過しようとしている。仕事の方はインド人スタッフ2名と、それなりに順調にこなしているが、一方で、生活面に関して言うと、毎日、トラブルが後を絶たない状況だった。「生活面」というか、私の住んでいるアパートで、日々、問題が発生しているのだ。

最初の問題は私がアパートに入居した、まさにその日のことだった。玄関のドアノブが少しガタついていると感じ、軽く左右に動かしてみたら、突然、スポンっと取手が外れてしまったのだ。すぐに管理会社に連絡すると「明日、修理に伺います」という返事だった。ドアノブが外れ、鍵も掛けられない状態で不安な一夜を過ごしたが、翌日には、確かに修理業者のような人が来て、修理してくれた。

ドアノブが直って安心していたのも束の間、今度は洗濯機で問題が発生した。洗剤を投入する引き出しがどうしても開かなかったのだ。仕方がないので、また管理会社に連絡すると「今ある洗濯機はかなり古いものなので、明日、新しい洗濯機をお届けします」という返事だった。

翌日、確かに、若い男性ふたりが、新しい洗濯機を届けてくれたが、本当に届けてくれただけだった。洗濯機の入った段ボール箱をリビングに置いて、そのまま帰ってしまったのだ。私から彼らに「古い洗濯機の回収とか、新しい洗濯機の設置とかはしてくれないの?」と聞くと、「俺たちは、洗濯機を運ぶことしか頼まれていない。後のことは管理会社に聞いてくれ」と言い残して去って行ってしまったのだ。

すぐに管理会社に連絡すると、「新しい洗濯機をお届けするのは今日ですが、設置はまた後日になります」という返事だった。結局、設置してくれる業者が来たのは3日後だったので、新しい洗濯機が入った大きな段ボール箱は、3日間、リビングに放置されたままだった。

また、新しい洗濯機を運んでくれたその日の夕方、今度は突然、停電が発生した。これはインドではよくあることだが、問題はそのあとだ。数分後に停電は復旧したが、家中のエアコンが動かなくなってしまったのだ。管理会社に連絡したが、いつも通り「明日、修理に伺います」というお決まりの返事だった。

インドは夏真っ盛りで、外気温は40℃超えだったので、エアコンが動かない室内でも、35度近くあった。

仕方がないので、その日は扇風機から送られてくる「生暖かい風」を受けながら、一晩を過ごした。

 

その後も、お湯が出なくなったり、台所の換気扇が動かなくなったり、Wi-Fiが繋がらなくなったりと、毎日のようにトラブルが発生し、毎日のように管理会社へ連絡する日々が、今も続いている。

まさに、インド生活は「毎日がスペシャル」で、本当に退屈しない日々だ。

 

 

 

 

 

 

「ステレオタイプ」

インド新会社を立ち上げるに当たり、2名のインド人スタッフを採用することができた。

そのうちの1名(40代、男性)は、すぐにでも入社したいと言ってくれたので、私のインド赴任を待たずして、5月1日から入社することになった。当面の間は、日本とインドで定期的にウェブ会議をしながら、会社設立後の諸手続きなどを進めてもらっていた。そして、いよいよ私がインドに赴任する前日に、彼から「お願い」というタイトルのEメールが送信されてきた。その内容は、「インドに赴任する際に、できれば、日本でこれを買ってきてください。」というメッセージとともに、「S&Bゴールデンカレー(甘口)」の画像が添付されていた。私はインド人はみな、辛いカレーが好きで、「日本のカレーなんか、本物のカレーじゃない」と思っているのだと勝手に思い込んでいたので、少し驚いた。念のため、そのメールの返信で「本当に甘口でいいの?」と聞くと、「はい。私は日本の甘口カレーが大好きです。」と返ってきた。

もう1名のインド人スタッフ(20代、女性)は、前職での業務引継ぎの関係から、6月8日の入社となった。そして、入社初日、私と一緒に現地の会計事務所に訪問することになった。先方の会議室に通された後、「お飲み物は何にしますか?」と聞かれたので、私は「チャイをお願いします。」とお伝えした。先方のスタッフが、その流れで彼女にも「あなたもチャイでいいですか?」と聞くと、彼女は間髪入れずに「いいえ、私はチャイは飲めません。コーヒーをお願いします。」と答えていた。これも私の勝手な思い込みで、インド人はみな、チャイが好きで、毎日のように飲んでいるものだと思っていた。まさか「チャイが飲めないインド人」が存在するとは・・・。

 

彼らのおかげで、「インド人はみな、辛いカレーが好きで、毎日チャイを飲んで過ごしている。」といった私のステレオタイプな認識が間違っていたことに気付くことができた。

 

2026年7月現在、私は、「甘口カレーが好きなインド人」と「チャイの飲めないインド人」と3人で、毎日、楽しく過ごしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「インドにまつわるエトセトラ」

「私がインドに赴任できるのは、一体いつになるのだろう・・・・。」

4月28日にそう投稿してからおよそ2か月が経過した6月中旬、私は今、インドのグルガオンにあるオフィスでこの投稿を書いている。

そう、あれから「些細なトラブル」はあったものの、会社の設立登記は無事完了し、就労ビザも取得できたため、晴れて6月5日にインドに赴任したのだった。

「6年ぶり2回目」のインドで、私が住んでいるグルガオンの街並みにほとんど変化は見られなかったが、ひとつだけ、大きく変わったことがある。それは、「お金の支払い方法」だ。以前インドにいた2019年頃は、いわゆる「QRコード決済」などというものは存在すらしていなかった。現金かクレジットカード、もしくはデビットカードしか選択肢は無かったと記憶している。ところが、2026年はインドの銀行口座に紐づいた「QRコード決済」が猛威を振るっており、現金はもちろんのこと、インドの銀行口座に紐づいていないクレジットカードすら使用できないことが多かったのだ。ここまで「キャッシュレス」が浸透しているとは想像すらしていなかった。

ただ、日本からの駐在員がインドで銀行口座を開設するためには、まずはFRROと言われる外国人登録を済ませた後、PANカードといわれる納税者番号が記載されたカードを発行してもらう必要がある。しかも、それらの手続きを同時並行で進めることはできないため、まずFRRO、次にPANカードという手順を踏まなければならなかった。これも「インドあるある」かもしれない。

私は、ようやくFRROが取得できた段階なので、まだ「QRコード決済」を利用することができない。仕方がないので、現金かクレジットカードが利用できる数少ないスーパーで全ての買い物を済ませ、なんとか生活している。昼食は、たまたま私のオフィスの1階にスターバックスがあり、さすがに「世界のスタバ」ではクレジットカードが使えるため、毎日、スタバでサンドイッチとコーヒーを買っている。ただ、インドでもスタバはそれなりの値段であり、日本で毎日食べていた仕出し弁当の2倍以上の昼食代となってしまっている。

「豪華な昼食」も悪くはないが、毎日スタバではさすがに飽きるので、今は一刻も早くPANカードが発行されることを、心から願っている・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「想定の範囲内」

「2026年4月1日」: 2025年10月の当社の取締役会で決議されたインド新会社の設立予定日である。

 通常、インドでの会社設立のリードタイムは3~4ヶ月と言われているため、設立手続きを代行してくれるインドのコンサル会社からは「10月から準備を始めれば、4月1日と言わず、2月か3月には会社を設立できると思います」と言われていた。

そうはいっても、何が起こるかわからない国、インドなので、その言葉を鵜呑みにはせず、会社設立時期は4月上旬くらいだろうと想定し、その前提で、自分のインド赴任日について検討することにした。

インドに赴任するためには、会社が設立登記された後、就労ビザを取得する必要がある。ビザ取得手続きもリードタイムは、通常3~5日と言われているが、これも余裕をもって2週間と想定した。

会社設立が4月上旬、その後、就労ビザの取得で2週間と想定し、私は、インド赴任日を「5月1日」にすることにした。インドのコンサル会社にも「5月1日赴任」で問題無いか確認すると「全く問題無いと思いますよ」という返事をいただいた。そのため、その前提で、フライト予約や空港までの新幹線の手配、引っ越しの手配、自家用車の売却等、赴任する上で必要な諸々の準備を開始した。ところが・・・・、である。

現在、2026年4月24日の午前11時12分。現時点でまだ、会社設立登記は完了していなかった・・・・。

設立登記に必要な書類を全て揃えて、コンサル会社からインド企業省に申請できたのは、4月17日だったので、現時点でまだ設立登記が完了していないのはもっともな話である。

2025年10月から準備を始めたにもかかわらず、なぜ設立登記の申請が2026年4月中旬になってしまったのか・・・、その理由は実に単純明快だった。

そもそもインドの会社法では、会社を設立する場合、2名以上の株主が必要となる。そのため、今回、日本本社だけでなく、当社の台湾子会社も株主になってもらうことにした。つまり、日本本社及び台湾子会社の双方で、会社設立のための様々な書類を準備しなければならない。

日本側は、10月からコンサル会社の担当者と相談し、着々と書類の準備を進めていた。しかしこの間、台湾子会社でどの程度準備を進めているのか。私は知る由もなかった。

日本側で全ての書類が整ったのは2月中旬くらいだったため、2月末くらいに設立登記の申請をすれば、4月1日の登記完了はほぼほぼ確実かと思われた。しかし、その矢先、信じられないメールがccとして私のところに送られてきた。それは、コンサル会社の担当者から、台湾子会社の担当者へ、会社設立のための必要書類が記載された一覧表とともに、書類を準備して欲しいという旨の依頼メールだったのだ。

つまり、10月からの5ヶ月間、このコンサル会社は日本本社としかやり取りしていなかったのだ。日本で書類を全て揃えるのに5ヶ月近くを費やしたのに、今から台湾側で準備を始めたとして、すべての書類が揃うのは、一体いつになるのだろう。すぐにコンサル会社に状況を確認すると、「書類の準備は、1社1社順番に行うので、日本本社の書類が揃った今から、台湾側に書類を依頼することになってます」と落ち着き払っておっしゃられた。

私から「今から準備を始めて、4月1日設立に間に合うんですか?」と聞くと、「台湾の方には相当頑張ってもらわないといけませんね」と、どこか他人事のような返答が返ってきた。

ただ、台湾側で相当頑張ってもらい、なんとか4月上旬には書類を揃えることができた。その結果、4月17日には、無事、登記申請を終えることができたのだった。

しかしながら、当然、私の「5月1日赴任」の目は無くなったため、赴任のフライトや引っ越し手配等、関係各所に赴任日の変更を連絡しなければならない。ただ、まだ会社の設立登記が完了しておらず、就労ビザについては、手続きを始めてすらいないため、変更後の赴任日を決めることができない状況だった。

私の「5月1日赴任」というのは、私なりに様々なリスクを想定したうえで決めたつもりだったが、やはり想定の範囲を超えることが起きてしまった。いや、インドで起こるリスクを想定しようなどという考え自体が、間違っているのかもしれない。

私がインドに赴任できるのは、一体いつになるのだろう・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「インドあるある」

私のインド赴任が決まった2026年2月に、またインドに出張することになった。今回はいろいろあって、親会社のKさんと現地で行動を共にすることになった。Kさんは、私がインド(デリー)に入国する1週間前にチェンナイ入りして、チェンナイで顧客訪問等をした後、私がデリーに入るタイミングで、合流することになっていた。

海外出張を経験した方なら賛同いただけると思うが、海外でホテルに長期滞在した場合、一番困るのは洗濯物が溜まってしまうことだと私は感じている。日本のビジネスホテルのようにコインランドリーが整備されていれば自分で洗濯もできるが、少なくともインドで私がよく利用するホテルには、そんな設備は無い。気の利いたホテルであれば「ランドリーサービス」というものがあって、「1人3枚/日まで」というような条件付きで無料で洗濯してくれることもあるが、そのホテルは、かなりリーズナブルなホテルなので、以前利用したときは、そのようなサービスは存在しなかった。

ところが、今回、ホームページで確認したところ、そのホテルにも、「ランドリーサービス」なるものが新設されていた。「これなら、日数分の着替えを持っていかなくても大丈夫!」と一瞬ホッとしたが、よく考えてみると、そこはインド人が経営する安ホテルである。ホームページに記載があっても、現地に行ってみると「今は洗濯機が壊れているから使えない」とか、仮に使えたとしても「アイロンも掛けずにしわくちゃなまま返ってくる」といった、インドにありがちなリスク(いわゆる「インドあるある」)は十分に考えられる。そう思い直し、私は日数分の着替えを持っていくことにした。

インドに入国した後、ホテルでKさんと合流した。Kさんは、1週間チェンナイで過ごし、昨日、このホテルに入ったそうだ。Kさんに「長期間インドに滞在するのは、いろいろと大変ですよね」と言うと、「そうなんだよ。洗濯物が溜まっちゃって・・・」という返事があった。そこで私は、不用意にも「このホテルにはランドリーサービスがあるみたいなので、使ってみたらどうですか?」と言ってしまった。Kさんは、マレーシアやインドネシア等、海外経験は豊富な方だったが、インド赴任経験は無いため、常識では考えられないことが起こる、いわゆる「インドあるある」をご存じ無い方だった。

翌日、一緒に夕食を食べていると、Kさんから「昨日出した洗濯物がさっき返ってきたんだけど、最悪だよ~」と言われた。「何があったんですか?」と聞くと、「スーツのズボンや下着を出したんだけど、返ってきたら、全部、生乾きで湿ってるんだよね!」ということだった。そう、これがまさに「インドあるある」である。こういったリスクを想定して、私は日数分の着替えを持って来たのだ。本来なら、昨日、インド経験が浅いKさんにも、私からこのようなリスクを伝えるべきだった。そのうえで「ランドリーサービス」を利用したのなら、返ってきた洗濯物が「生乾き」でも、それは自己責任だ。ただ、そういったリスクを伝えずに「ランドリーサービスを使ってみたらどうですか?」と軽はずみなことを言ってしまった自分に対して、後悔の念と罪悪感に苛まれた。しかし、今となっては「後の祭り」なので、私は、精一杯、驚いたフリをして「洗濯物が生乾きって、そんなことがあるんですね!!!」と言ってしまった。Kさん、ごめんなさい・・・・。

これから数日間、Kさんと行動を共にするので、その間に、私の知る限りの「インドあるある」をKさんに伝えよう・・・。それが、私ができるせめてもの贖罪だ。