プロローグ「穏やかな日常」

2021年10月、新型コロナウィルスが未だ猛威を振るう中、私は28年間勤務した大手自動車部品メーカーであるD社を51歳と8ヶ月で退職した。

定年まではまだ8年以上あるが、いわゆる「早期退職制度」を利用して、D社とは比べものにならないほど小さな部品メーカーFCB社に転職したのだ。

D社での28年間を振り返ってみると、あらためてとても恵まれた会社生活を送ってきたと感じる。30代で、希望通りヨーロッパ(ドイツ・オランダ)へ海外赴任させてもらい、  40代で、人事部への異動を願い出ればそれも叶えてもらい、50代で再度、海外赴任を希望すれば、今度はインドへの赴任が決まるなど、私ほど自分の思い描いたキャリアを歩んできた社員も珍しいだろうと思う。

ただ、確かに過去を振り返れば、文句のつけようの無い会社生活だったが、一方で、これからのことを考えると、正直言って不安しか無かった。というのも、2021年1月に、自分より年下の方が人事担当役員となり、優秀な若手メンバーが人事部での要職を占めるようになった。いわゆる「世代交代の波」というやつだ。

一方で、経験豊富なベテラン人事部員は必然的に閑職に追いやられたり、人事部以外の他部門へ異動させられることが多くなり、そういった状況を不安に感じて、転職していく方も少なくなかった。私も「明日は我が身」と感じ、転職していく方々に話を聞いたところ、転職サイトに登録すればいろんな会社からオファーがくるよ、と言われた。

そこで、私もとりあえず、2020年12月、軽い気持ちでビズリーチに登録した。すると、その翌日には、人材紹介会社の方からコンタクトがあり、その方に「経理・人事及び海外経験を活かしたコーポレート部門長」というポストを探していると伝えたところ、紆余曲折、なんやかといろいろあって、FCB社に転職する運びとなった。

転職が決まった後、周囲の方々から、「よく思い切ってD社を退職する決意をしたね。」とか、「D社をやめてホントに後悔しない?」と言われることが何度もあった。私自身も、転職活動がトントン拍子に進んでいく中で「本当に大手企業であるこの会社をやめて、いつか後悔しないだろうか?」と考えたことはあった。

ただ、いろいろ考えた結果、「この会社をやめて後悔する日が来るかもしれないが、逆に、やめなかった(転職しなかった)ことを後悔する日が来るかもしれない。」と思うようになり、どっちにしても後悔するなら、「やらずに後悔するより、やってみて後悔した方が人生諦めがつく。」という結論に至った。

D社を退職してから約3年が経過したが、現時点で、退職したことを後悔したことは、一度も無い。むしろ、D社にいたら決して送ることのできなかったであろう「穏やかな日常」をFCB社で送ることができている。

皆さんにも、私の「穏やかな日常」を知ってもらいたくて、FCB社での様々な出来事をこのブログに書き記すことにした。