2023年9月に昆山拠点へ出張したが、その3か月後の2023年12月には広州拠点へ出張することになった。
目的としては、広州拠点の人事制度改訂の説明会に出席し、本社の人事担当役員として一言主旨を説明して欲しいということだった。本来なら、広州の拠点長が説明すれば問題無いようにも思えるが、この人事制度改訂はもともと日本本社が「人事制度の標準化」を実現するために広州拠点に依頼した話だったので、断るわけにもいかなかった。
同じ中国(昆山)に数か月前に出張したばかりだったので、それなりに勝手はわかっているつもりだったが、ここでひとつ、大きな点を見誤ってしまっていた。それは、昆山と広州の気温差だ。昆山の12月の平均気温は約6℃で、日本とそれほど変わらないが、広州の12月の平均気温は約15℃前後で、最高気温は20度を超えていた。前回の昆山出張の経験から、広州も昆山同様、日本並みの気温だと勝手に思い込んでしまい、シャツの上に厚手のセーターと冬物のスーツ、コートという、完全に冬仕様の服装で広州へ出発してしまったのだ。
広州空港に降り立つと、その日は非常に良い天気で日本の初夏のような陽気だった。とりあえず、空港から宿泊先のホテルまでは、そのまま冬仕様の服装で汗だくになりながら移動した。
翌日は会議室で明日の説明会の事前打ち合わせをすることになっていた。厚手のセーターと上着は必要ないと思い、ホテルに置いていった。会議室ではシャツだけだとなんとなく肌寒く感じたが、仕方がないので、そのまま1日中過ごした結果、微妙な寒さで少し体調がおかしくなってしまった。
初日の予定を終え、ホテルに帰ってから、何か軽く羽織るものがないか、スーツケースをひっくり返して探したところ、ホテルでの部屋着として持ってきたスウェット生地のパーカーが出てきた。色も地味なグレーなので、明日はこれを着て行くしかない・・・と考えたが、ここでひとつ問題があった。
私は無類のアニメ好きで、特に「進撃の巨人」や「新世紀エヴァンゲリオン」は昔からのファンであり、様々なグッズやコラボ商品を持っている。そして、この「グレーのパーカー」は、大手アパレルメーカーとエヴァンゲリオンのコラボ商品で、胸元に大きく「EVANGELION」と印字され、背中には「エヴァ初号機」の勇敢な姿が印刷されていた。
説明会の冒頭で本社の人事担当役員として挨拶するのに、果たしてアニメのキャラクターが印刷されたパーカーを着ていても良いのか、TPOをわきまえていないヤツだと思われないか・・・・、数時間悩んだ結果、「アニメのコラボ商品だとバレなければ問題無い。」という結論に至った。
背中の初号機を隠すのは簡単だ。要は、後ろ姿さえ見られなければ良いのだ。説明会の会場に入り、挨拶の為に演台のところへ移動する際は、背中を見せないように、体を斜めにして歩いて行けば良い。日本では「お客様に背中を見せるのは失礼」とされる風習がある(ような気がする)ので、それを実践してると言い張れば良いだろう。問題は左胸のロゴマークだ。これについては、いろいろ考えた結果、緊張を鎮めようとして右手で左胸を押さえている姿勢を取ることにした。まさに「進撃の巨人」の「心臓を捧げよ!」のポーズである。
この2つの苦肉の策により、私は何とか日本本社の人事担当役員として、無事に挨拶を終えることができた。私が「EVANGELION」のパーカーを着ていたことは、誰にもバレなかった(と信じている)。
ただ、ひょっとすると、一部のアニメ好きの社員からは「進撃の巨人好き」だと思われたかもしれないが・・・。
まあ、細かいことは気にしないようにしよう。